水面に浮かぶ古き書庫

いろいろ書いたりとか

2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#12-2

#12 悲歌。 2.沈んだ涙 子守歌のようだった。 眠りへと堕ちていくこの身体、この心を癒やす音だった。瞳が閉じ、光から、熱から、時間からも隔離される。そして、二度とその瞳が開くことはない。時の流れを忘れた瞳は、生きる意味すらも、薄汚れた海の…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#12-1

#12 悲歌。 1.生存者 「あんたも、一人っきりになっちゃったんだよね」 波の音が聞こえる。誰の声も聞こえない。無数の悲しみが今にも浮かび上がってきそうなほどに水面は青く、それでいて不気味なほど白い。 少女は、海水に濡れ、額に張り付いた三つ編…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#11-3

#11 幻牙。 3.白い微笑 真紅の瞳、刃、闘気――いや、血塗られた殺気。 瑞穂は、手に握っていたポニータのモンスターボールを地面に置いた。ボールは壊れており、ひび割れの隙間から火花を散らしている。その小さな炎の欠片よりも鮮烈な赤を帯びた、屈強…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#11-2

#11 幻牙。 2.真紅の刃 黒い雨はやんだ。だが依然、空は黒雲に覆われている。その黒雲の中枢といってもいい、真黒の色をしている部分から、漆黒の霧が吹き出していた。 エンジュ総合病院の一室。消毒液の臭いが立ちこめ、白い壁で囲われた空間で、瑞穂…