水面に浮かぶ古き書庫

いろいろ書いたりとか

2019-01-01から1年間の記事一覧

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#15-2

#15 天使。 2.生贄の復活祭 全国でも有数の標高を誇るシロガネ山。青い空と白い雲とに彩られた山の中腹に、静かに広がっている樹海。それはさながら、澄んだ泉の底深くに溜まっている汚泥のようであり、夢のような夜景の最深部に溢れている、喧噪にも似…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#15-1

#15 天使。 1.滅びのメシア 炎が爆ぜた。紅蓮の鮮やかな輝きを纏った、灼熱の炎だった。炎は岩肌を灼き、焼け焦げた岩はマグマの如く溶けていた。微かに透ける岩の表面から、ゆっくりと流動する高温の腑が覗く。 続けざまに炎は空を翔た。薄青色の空を…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#14-4

#14 愛憎。 4.嘘の玩具 「壊す? 私を? 馬鹿な。私はもう、とっくに壊れてる。お前に壊された。今の私は、お前を殺すことしか頭にない、ただのガラクタ」 ハンドキャノンを銃口をカヤへと向けたまま、氷は静かに言い放った。少女の口許からは、細く長…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#14-3

#14 愛憎。 3.途切れた螺旋 氷の抜け道を北に抜けた先に、ジョウト最北端の小さな街、シマナミタウンはあった。 だが、今は何もない。人も建物も見えず、誰の声も聞こえない。焼け焦げた瓦礫や屍体の跡を隠そうとするかのように、色のない雪が一面を覆…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#14-2

#14 愛憎。 2.硝子の迷宮 凍りついたような静寂の中で、時計の秒針が動く音だけが、妙に騒がしく聞こえた。乾ききった音は、耳から離れずに、どこか自分の気持ちをそわそわと浮き足立たせる。 鋭田美子は落ち着かない様子で時計を見た。白いプラスチッ…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#14-1

#14 愛憎。 1.閉鎖回廊 啜り泣きが、冷たく暗く湿った部屋に木霊している。 乾いた血に汚れきった漆黒の壁に、白い掌が触れた。嗚咽が途切れ、部屋全体を震撼させるように激しい悲鳴が辺りに響いた。白い掌は黒い壁を一瞬だけ掴み、そのまま床へと落ち…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#13-2

#13 断罪。 2.始まり無き罰 凪いでいた海が狂ったことに気付く者はいなかった。夜の闇が、グラシャラボラスを沈めることになる狂気を包み隠していたのだから。 冷たい電灯の光に溢れた一室。リリィは俯きながらベッドに座り、ライムは壁にもたれて窓の…

オリジナル短編小説『通りすがりの愛憎と少女達の殺害代行』

「あの女の人、もうすぐ人を殺すわよ」 須藤 透はそっけなく言い放った。少女の口ぶりはまるで、とてもありふれていてつまらないことであるかのように感情が無く、独り言のようにその語尾は消え入りそうだった。 「そっ――それは、穏やかじゃないね」 塚本瑞…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#13-1

#13 断罪。 1.終わり無き罪 辺りは干からびていた。 日の光は、容赦なく降り注いでいる。 水を失い、木も草も萎れ、黒々とした岩の露出だけが目立つ。荒んだ大地は、まさに荒野と呼ぶに相応しく、生き物の気配さえも消え失せていた。 焦げるような静寂…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#12-4

#12 悲歌。 4.孤独な二重奏 「あなたの悲しみは、私を殺す――それであなたの悲しみが消えるの?」 ミカンの言葉に呼応するように、カイリューは破壊光線を発した。凄まじい威力の衝撃波が、ミカンの服を引き裂きいていく。「リンちゃん! 破壊光線!」 …

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#12-3

#12 悲歌。 3.見えない殺意 ミルは月の光を背に向けて語った。 瞼を閉じれば甦る、炎の呻きと稲妻のように鋭い閃光。沸き上がる煙の中に見えるのは、焼け爛れ助けを求める人間の姿だけ。「あたしは、あの男を追いかけてグラシャラボラスに忍び込んだ――…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#12-2

#12 悲歌。 2.沈んだ涙 子守歌のようだった。 眠りへと堕ちていくこの身体、この心を癒やす音だった。瞳が閉じ、光から、熱から、時間からも隔離される。そして、二度とその瞳が開くことはない。時の流れを忘れた瞳は、生きる意味すらも、薄汚れた海の…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#12-1

#12 悲歌。 1.生存者 「あんたも、一人っきりになっちゃったんだよね」 波の音が聞こえる。誰の声も聞こえない。無数の悲しみが今にも浮かび上がってきそうなほどに水面は青く、それでいて不気味なほど白い。 少女は、海水に濡れ、額に張り付いた三つ編…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#11-3

#11 幻牙。 3.白い微笑 真紅の瞳、刃、闘気――いや、血塗られた殺気。 瑞穂は、手に握っていたポニータのモンスターボールを地面に置いた。ボールは壊れており、ひび割れの隙間から火花を散らしている。その小さな炎の欠片よりも鮮烈な赤を帯びた、屈強…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#11-2

#11 幻牙。 2.真紅の刃 黒い雨はやんだ。だが依然、空は黒雲に覆われている。その黒雲の中枢といってもいい、真黒の色をしている部分から、漆黒の霧が吹き出していた。 エンジュ総合病院の一室。消毒液の臭いが立ちこめ、白い壁で囲われた空間で、瑞穂…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#11-1

#11 幻牙。 1.黒い霧雨 黒い手が、そこまで迫っていた。 霧状の闇が、背後で、邪悪な笑みを浮かべながら集まっている。光を閉ざす狭く高い森の奥に、普通ではあり得ない特殊な力が満ちている。 細々と輝く月の光をものともせず、影は身体を取り戻した。…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#10-3

#10 過去。 3.死劇の発端 「どうして……どうして、あんなことしたの!」 塚本大樹は、震える声で訊ねた。彼の顔は蒼白だった。せわしなく手元にある布団を握り、ひどく興奮した様子で目の前にいる瑞穂に詰め寄っていた。 何も言わずに、瑞穂は俯いている…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#10-2

#10 過去。 2.紅翼の霊 暗闇に沈む部屋に、ぼんやりと白い裸体が浮き出ていた。 射水 氷は、コガネホテルの一室から夜景を眺めていた。壁により掛かるようにして、物憂げな瞳を宙へと泳がせている。その表情は、あくまで無表情で、まるで白い仮面を被っ…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#10-1

#10 過去。 1.霞んだ記憶 遠い、深い夢を見ていたような気がする。 現実――血生臭い惨劇――に疲れ果てたのだろうか。 『死』というものを意識したのは、もう何回目なのだろう。考える度に、足下から善もなく悪もない影が忍び寄ってくる―― それは恐怖。こ…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#9-4

#9 侵蝕。 4.妖獣の叫び 「そうかい……。君は、そんなに私の邪魔をしたいようだね」 シグレは、それだけ言うと、黙ったまま、白い歯を覗かせた。 瑞穂は段々と焦れてきた。胸の辺りが灼けるように熱い。息をするのが苦しくなってきた。焦らない方がいい………

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#9-3

#9 侵蝕。 3.少女の自我 「あなたの妹は……巻き込まれたのよ」 ラジオ塔、一階の中央フロアのソファに腰掛け、射水 氷は断言した。 壁に掛けられた時計が、11時47分と、時刻を示している。近くでは、社会見学であると思しき子供達が大勢来ており、耳…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#9-2

#9 侵蝕。 2.或る計画 暗い部屋。もう、朝になっている筈なのに、薄暗い部屋。 妹は、そこにいた。瑞穂の妹……そう、百合ゆかりが。 うっすらと目を開けて、ゆかりは、すぐに辺りの様子をうかがった。薄暗いのと、頭がぼんやりしているのとで、よく見えな…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#9-1

#9 侵蝕。 1.消えた妹 遠い空の海で、笑みもなく佇む君。 波に揺られて、風と戯れて、時は漂う。 私が、舞い降り、話しかけても。 壊れた、眼差しのまま、何も言わないのは、どうして? 割れた硝子を見つめ、自分を眺める君。 嘘でかためて、幻想に泳い…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#8-3

#8 無力。 3.哀しき強襲 天井の窓から、夕焼けの赤い光が注ぎ込んできた。 大広間の中央に位置する食卓の上に、色取り取りの食事が並べられている。 暗い面持ちで席に着き、サリエルは溜息をついた。3日前の、あの喧嘩騒動から、妹とは口を利いていない…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#8-2

#8 無力。 2.闇の再来 湖のほとりにそびえる巨木の下で、呻きに似た声が聞こえた。ひときわ大きなメスのリングマが、巨木に支えられ、苦しそうに身を捩っているのだ。湖まで案内してきた、一回り巨大な野生のリングマが、心配そうに彼女を指さしながら、…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#8-1

#8 無力。 1.月夜の咆哮 暗い地下の世界から抜け出て、少年はシャマインの庭で満月の浮かぶ星空を見上げた。月の光に照らされて、足下に広がる池の水が銀色の光を浮かべている。背後からは滝の音が、少年の心を見透かしたようにざわめいていた。 月は孤…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#7-3

#7 視界。 3.最期の景色は 「ずるいよ。私たち……」 血の気の失せた顔で、瑞穂はぽつりと呟いた。冬我は、瑞穂の表情を見つめたまま、何も言わない。普段よりも更に白くなった瑞穂の幼顔が、先程とは違う不思議な、上品な妖艶さを帯びていた。 ごくり、唾…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#7-2

#7 視界。 2.神の殺気に 街が見える。灰色の雲のから覗く街は、人々に溢れていた。 翼を振り下ろすと、空気が裂かれた。冷たい風の奥に、赤い瞳が爛々と輝いている。 狂気は叫び、雲を振り払い静寂の中に身を寄せた。嵐の前の静けさだろうか。 殺せ。殺…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#7-1

#7 視界。1.魂に再会すると ○● 異常だ。 風を切り空気を凍えさせ、雲の間を縫うように飛びながら、伝説の蒼い光は思っていた。 翼を振り、空を翔るその姿は、まさに伝説の名に恥じないほど優雅で気品に満ちている。 激しく鳴いた。野太い声が雲の中に響…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#6-3

#6 憑依。 3.消失=増殖 ~彼らのために 私たち 旅立つ~ ○● 「ここです。ここで、私はアンノーンに襲われて、不思議な声を聞いたんです」 瑞穂の声を聞きながら、韮崎は探るように辺りを、遺跡の中を見回していた。辺りの壁は、先程の衝撃で多少崩れて…