水面に浮かぶ古き書庫

いろいろ書いたりとか

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#11-1

#11 幻牙。 1.黒い霧雨 黒い手が、そこまで迫っていた。 霧状の闇が、背後で、邪悪な笑みを浮かべながら集まっている。光を閉ざす狭く高い森の奥に、普通ではあり得ない特殊な力が満ちている。 細々と輝く月の光をものともせず、影は身体を取り戻した。…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#10-3

#10 過去。 3.死劇の発端 「どうして……どうして、あんなことしたの!」 塚本大樹は、震える声で訊ねた。彼の顔は蒼白だった。せわしなく手元にある布団を握り、ひどく興奮した様子で目の前にいる瑞穂に詰め寄っていた。 何も言わずに、瑞穂は俯いている…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#10-2

#10 過去。 2.紅翼の霊 暗闇に沈む部屋に、ぼんやりと白い裸体が浮き出ていた。 射水 氷は、コガネホテルの一室から夜景を眺めていた。壁により掛かるようにして、物憂げな瞳を宙へと泳がせている。その表情は、あくまで無表情で、まるで白い仮面を被っ…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#10-1

#10 過去。 1.霞んだ記憶 遠い、深い夢を見ていたような気がする。 現実――血生臭い惨劇――に疲れ果てたのだろうか。 『死』というものを意識したのは、もう何回目なのだろう。考える度に、足下から善もなく悪もない影が忍び寄ってくる―― それは恐怖。こ…