水面に浮かぶ古き書庫

いろいろ書いたりとか

2019-06-01から1ヶ月間の記事一覧

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#5-1

#5 妖魔。 1.静かなる波紋 「どうしても、ダメなの……?」 薄暗い洞窟に、女の小声が響いた。どこか高飛車な、人を見下したような声色だった。辺りには蝙蝠ポケモン、ズバットの甲高い鳴き声が反響している。他には物音一つしない。 疲労と絶望で血走った…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#4-3

#4 狂気。 3.光風霽月 『また、上では、天に奇跡を見せ、 下では、地にしるしを、 すなわち、血と火とたちこめる煙とを、 見せるであろう。 主の大いなる輝かしい日が来る前に、 日は闇に 月は血に変るであろう。』(『新約聖書 使徒行伝』) ○● 包帯を…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#4-2

#4 狂気。 2.雲心月性 『この民に行って言え、 あなたがたは聞くには聞くが、決して悟らない。 見るには見るが、決して認めない。』(『新約聖書 使徒行伝』) ○● 夕焼け空は、何者にも平等だ。平等に紅く染まり、平等に眩しい。しかし、彼らは紅く染ま…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#4-1

#4 狂気。 1.月卿雲客 『見よ、侮る者たちよ。驚け、そして滅び去れ。 私は、あなたがたの時代に一つの事をする。 それは、人がどんなに説明して聞かせても、 あなたがたのとうてい信じないような事なのである。』(『新約聖書 使徒行伝』) ○● ここは、…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#3-3

#3 姉妹。 3.街は闇に堕ちて ---------------------------------------------------------------- 差出人:法雅希 祐介 宛先:yot325@poi.freeways.**.** 件名:***** ---------------------------------------------------------------- 調べとい…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#3-2

#3 姉妹。 2.再会は涙の予兆 彼女が見た最期の風景は、透き通った青空だった。 「わぁ……、きれいな……青空だね……」 彼女が呟いた瞬間、自分の背骨が粉々に砕ける音が、耳に響いた。続いて、頭蓋が崩れ、頭皮が弾け、鮮やかなピンク色をした脳味噌が辺りに…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#3-1

#3 姉妹。 1.秘事は青空に消え 月の光を浴びながら、少女は物思いに耽っていた。 滑らかで雪のように白い肌が、より一層、白色を帯びている。強すぎず弱すぎず、汚れた下界を優しく照らすその光は、物事を考えるときには最良の光だった。 少なくとも少女…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#2-4

#2 傷痕。 4.去りゆく勢い 「お姉ちゃん! そんなとこで寝てたら風邪ひくで!」 後ろから関西弁の女の子の声が聞こえてきた。その声は大きく、瑞穂を現実の世界に引き戻すのに充分すぎる程の音量だった。瑞穂は目を覚ました。 後ろを振り向くと、7歳く…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#2-3

#2 傷痕。 3.交錯する辛い思いで 体中の体液が、吹き出してしまうのではないだろうか。 そう思えるほどに赤い体液は、鮮血は激しい勢いで瑞穂の胸から噴きだしていた。全身を駆ける痛みの原因を確かめるため、瑞穂は自分の胸を恐る恐る見やった。 瑞穂の…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#2-2

#2 傷痕。 2.決別は鮮血と共に 朝の心地よい日差しが、窓からそそぎ込んできた。 眩しい光を受けて、瑞穂は目が覚めた。ベッドから半身を起こして、深く息を吸い込む。そこで瑞穂は、昨日の夜にアカネの好意で、コガネジムに泊めてもらった事を思い出し…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#2-1

#2 傷痕。 1.闇に堕ちた街 どんなに美しい輝きをもつ宝石でも、光がなければ輝くことはできない。どんなに他の景色よりも際だって見える黄金でも、闇の中にあっては、すべて色の無い塊でしかない。そんな形容は、この街、コガネシティにもあてはまる。 …

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#1-2

#1 秘密。 2.偽りの希望 自分を呼ぶ声。呼びかける声。ひどく懐かしい、記憶の奥底にしまわれた声。その呼び声に瑞穂は瞼を開いた。射し込んでくる光。感覚の無い胸元に、暖かみが甦る。 瑞穂は目の前に佇んでいる人影を見つめた。薄青色の幻想の中で、…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#1-1

#1 秘密。 1.満月の夜に 強くても、力がなければ意味がない。 力があっても、強くなければ意味がない。 ○● 少女は夢を見ていた。 夢の中では、荒廃した大地が広がっていた。空は闇に覆われ、月は見えない。無数の流星が光だけが見える。その光は次々と地…