水面に浮かぶ古き書庫

いろいろ書いたりとか

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#9-1

#9 侵蝕。 1.消えた妹 遠い空の海で、笑みもなく佇む君。 波に揺られて、風と戯れて、時は漂う。 私が、舞い降り、話しかけても。 壊れた、眼差しのまま、何も言わないのは、どうして? 割れた硝子を見つめ、自分を眺める君。 嘘でかためて、幻想に泳い…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#8-3

#8 無力。 3.哀しき強襲 天井の窓から、夕焼けの赤い光が注ぎ込んできた。 大広間の中央に位置する食卓の上に、色取り取りの食事が並べられている。 暗い面持ちで席に着き、サリエルは溜息をついた。3日前の、あの喧嘩騒動から、妹とは口を利いていない…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#8-2

#8 無力。 2.闇の再来 湖のほとりにそびえる巨木の下で、呻きに似た声が聞こえた。ひときわ大きなメスのリングマが、巨木に支えられ、苦しそうに身を捩っているのだ。湖まで案内してきた、一回り巨大な野生のリングマが、心配そうに彼女を指さしながら、…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#8-1

#8 無力。 1.月夜の咆哮 暗い地下の世界から抜け出て、少年はシャマインの庭で満月の浮かぶ星空を見上げた。月の光に照らされて、足下に広がる池の水が銀色の光を浮かべている。背後からは滝の音が、少年の心を見透かしたようにざわめいていた。 月は孤…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#7-3

#7 視界。 3.最期の景色は 「ずるいよ。私たち……」 血の気の失せた顔で、瑞穂はぽつりと呟いた。冬我は、瑞穂の表情を見つめたまま、何も言わない。普段よりも更に白くなった瑞穂の幼顔が、先程とは違う不思議な、上品な妖艶さを帯びていた。 ごくり、唾…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#7-2

#7 視界。 2.神の殺気に 街が見える。灰色の雲のから覗く街は、人々に溢れていた。 翼を振り下ろすと、空気が裂かれた。冷たい風の奥に、赤い瞳が爛々と輝いている。 狂気は叫び、雲を振り払い静寂の中に身を寄せた。嵐の前の静けさだろうか。 殺せ。殺…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#7-1

#7 視界。1.魂に再会すると ○● 異常だ。 風を切り空気を凍えさせ、雲の間を縫うように飛びながら、伝説の蒼い光は思っていた。 翼を振り、空を翔るその姿は、まさに伝説の名に恥じないほど優雅で気品に満ちている。 激しく鳴いた。野太い声が雲の中に響…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#6-3

#6 憑依。 3.消失=増殖 ~彼らのために 私たち 旅立つ~ ○● 「ここです。ここで、私はアンノーンに襲われて、不思議な声を聞いたんです」 瑞穂の声を聞きながら、韮崎は探るように辺りを、遺跡の中を見回していた。辺りの壁は、先程の衝撃で多少崩れて…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#6-2

#6 憑依。 2.追求→発見 ~彼らは 意識 察知する力あり 外 拒む~ ○● 「こんな所で、悪いんだがね……」 「あ、いえ。気を使わないでください。私が、なんの連絡も無しに押し掛けたんですから……。こちらこそ、お忙しい中、突然お邪魔して、すみません」 ホ…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#6-1

#6 憑依。 1.接続+授与 ~私たち一族 ことば 此処に刻む~ ○● 鳥ポケモンのけたたましい鳴き声が、国道36番線沿いのポケモンセンターに朝を告げる。窓から注ぐ陽光の光を浴びながら、瑞穂はパソコンのディスプレイを見つめていた。 キーボードを打つ…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#5-3

#5 妖魔。 3.晒される羞恥 ライチュウの背中からは、バチバチと電気が弾けている。その気になれば、チエの身体は、電撃で弾け飛び、黒こげにされてしまうだろう。そんな孫の泣き声を聞き、老人は、それまでの弱腰が嘘のように怒鳴った。 「おまえら、あ…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#5-2

#5 妖魔。 2.愚かなる暴挙 明日の幻影は、夢のままで消えて。 残された希望、涙に、溶けこむ。 忘れたいと思う気持ちだけ、憎悪、呼び覚ます。 燃える荒野で、出会った君は、狂い、吠えたてる。 それだけ、これだけ、どうしたかな。 あれだけ、それだけ…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#5-1

#5 妖魔。 1.静かなる波紋 「どうしても、ダメなの……?」 薄暗い洞窟に、女の小声が響いた。どこか高飛車な、人を見下したような声色だった。辺りには蝙蝠ポケモン、ズバットの甲高い鳴き声が反響している。他には物音一つしない。 疲労と絶望で血走った…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#4-3

#4 狂気。 3.光風霽月 『また、上では、天に奇跡を見せ、 下では、地にしるしを、 すなわち、血と火とたちこめる煙とを、 見せるであろう。 主の大いなる輝かしい日が来る前に、 日は闇に 月は血に変るであろう。』(『新約聖書 使徒行伝』) ○● 包帯を…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#4-2

#4 狂気。 2.雲心月性 『この民に行って言え、 あなたがたは聞くには聞くが、決して悟らない。 見るには見るが、決して認めない。』(『新約聖書 使徒行伝』) ○● 夕焼け空は、何者にも平等だ。平等に紅く染まり、平等に眩しい。しかし、彼らは紅く染ま…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#4-1

#4 狂気。 1.月卿雲客 『見よ、侮る者たちよ。驚け、そして滅び去れ。 私は、あなたがたの時代に一つの事をする。 それは、人がどんなに説明して聞かせても、 あなたがたのとうてい信じないような事なのである。』(『新約聖書 使徒行伝』) ○● ここは、…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#3-3

#3 姉妹。 3.街は闇に堕ちて ---------------------------------------------------------------- 差出人:法雅希 祐介 宛先:yot325@poi.freeways.**.** 件名:***** ---------------------------------------------------------------- 調べとい…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#3-2

#3 姉妹。 2.再会は涙の予兆 彼女が見た最期の風景は、透き通った青空だった。 「わぁ……、きれいな……青空だね……」 彼女が呟いた瞬間、自分の背骨が粉々に砕ける音が、耳に響いた。続いて、頭蓋が崩れ、頭皮が弾け、鮮やかなピンク色をした脳味噌が辺りに…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#3-1

#3 姉妹。 1.秘事は青空に消え 月の光を浴びながら、少女は物思いに耽っていた。 滑らかで雪のように白い肌が、より一層、白色を帯びている。強すぎず弱すぎず、汚れた下界を優しく照らすその光は、物事を考えるときには最良の光だった。 少なくとも少女…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#2-4

#2 傷痕。 4.去りゆく勢い 「お姉ちゃん! そんなとこで寝てたら風邪ひくで!」 後ろから関西弁の女の子の声が聞こえてきた。その声は大きく、瑞穂を現実の世界に引き戻すのに充分すぎる程の音量だった。瑞穂は目を覚ました。 後ろを振り向くと、7歳く…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#2-3

#2 傷痕。 3.交錯する辛い思いで 体中の体液が、吹き出してしまうのではないだろうか。 そう思えるほどに赤い体液は、鮮血は激しい勢いで瑞穂の胸から噴きだしていた。全身を駆ける痛みの原因を確かめるため、瑞穂は自分の胸を恐る恐る見やった。 瑞穂の…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#2-2

#2 傷痕。 2.決別は鮮血と共に 朝の心地よい日差しが、窓からそそぎ込んできた。 眩しい光を受けて、瑞穂は目が覚めた。ベッドから半身を起こして、深く息を吸い込む。そこで瑞穂は、昨日の夜にアカネの好意で、コガネジムに泊めてもらった事を思い出し…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#2-1

#2 傷痕。 1.闇に堕ちた街 どんなに美しい輝きをもつ宝石でも、光がなければ輝くことはできない。どんなに他の景色よりも際だって見える黄金でも、闇の中にあっては、すべて色の無い塊でしかない。そんな形容は、この街、コガネシティにもあてはまる。 …

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#1-2

#1 秘密。 2.偽りの希望 自分を呼ぶ声。呼びかける声。ひどく懐かしい、記憶の奥底にしまわれた声。その呼び声に瑞穂は瞼を開いた。射し込んでくる光。感覚の無い胸元に、暖かみが甦る。 瑞穂は目の前に佇んでいる人影を見つめた。薄青色の幻想の中で、…

ポケモン二次創作小説『刹那の夢と嘘の玩具』#1-1

#1 秘密。 1.満月の夜に 強くても、力がなければ意味がない。 力があっても、強くなければ意味がない。 ○● 少女は夢を見ていた。 夢の中では、荒廃した大地が広がっていた。空は闇に覆われ、月は見えない。無数の流星が光だけが見える。その光は次々と地…